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『ぼくの小鳥ちゃん』感想|劇薬のように寂しく、砂糖菓子のように甘い小さな物語

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絵本は基本的に子供が読むものですが、もちろん大人だって読んでもかまいません。

最近は大人向けの絵本だってあるくらいですから。

でも、たとえば”絵本のような小説”があったならば……?

中身も子供向けのようにわかりやすい構成や文章ではなくて、大人向けの小説のようだけれど、やっぱり子供向けの絵本を彷彿とさせる……。

そんな本があったなら、読んでみたいと思いませんか?

たった数行で興味を持ってくれた人のためにも、少しだけ詳しく内容を紹介していきたいと思います。

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『ぼくの小鳥ちゃん』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルぼくの小鳥ちゃん
著者江國香織
出版社新潮社
出版日2001年11月28日
ジャンルほっとする大人向け童話

美しい文章を書くことで有名な江國香織が創った、素敵な物語です。

約120ページのなかにおさまっているのは、柔らかい文章とあたたかい挿し絵でした。

少ないページ数と絵本作家による挿し絵は、これが小説だという事実を忘れさせてくれます。

『ぼくの小鳥ちゃん』のあらすじ

ある冬の朝、主人公の部屋にまっしろの小鳥がやってきました。

小鳥は家族や友だちとはぐれてしまったようでした。

それから主人公は”小鳥ちゃん”との毎日を送ります。

それは雪が降る季節にも拘わらず、ストーブのまえでココアを飲んでいる時間のようにあたたかな日々でした。

ぼくと小鳥ちゃん

主人公の”ぼく”は会社勤めのごく普通の男性です。

アパートの5階に住んでいて、件の小鳥ちゃんと出会うまえにも一度、別の小鳥と共に暮らしてたことがありました。

ひとりと一羽はまるで恋人同士のように、それでいて友だち同士のように、時たま家族のようになります。

主人公は突然家にやってきた小鳥ちゃんを邪険にすることもなく、むしろ甲斐甲斐しく世話を焼くのでした。

小鳥ちゃんは少しおすましさんなレディです。

10センチほどの小さな体で、ラム酒のかかったアイスクリームが大好き。

「あたしのごはんはそれにして。三度三度それでもかまわないわよ」

主人公が小さな体を案じて、体に悪そうだと言うと、自分の体にはいいもので”世界じゅうでいちばんいいたべもの”だと断言する小鳥ちゃんでした。

そうしてひとりと一羽は毎日を楽しく過ごしていました。

ぼくと彼女

主人公にはしっかり者のガールフレンドがいます。

どんな女性なのか、主人公に言わせると、

彼女は、花で言うと黄色いカーネーションのように清潔で、数字で言うと2のように気がきいている。

そんな人でした。

ふたりは職場がすぐそこなのでお昼はいつもいっしょに食べています。

主人公が小鳥と暮らし始めたと知った彼女は、小鳥にはなにを摂らせればいいのか簡潔に教えてくれました。

休日の朝には朝早く主人公の家にやってきて、花瓶の花を変えたり朝ごはんを作ったりと、よく動く人です。

彼女についてあまり詳細に語られることはありませんが、その少しの情報でどんなに素敵な女性なのかということは理解できました。

彼女と小鳥ちゃん

小鳥ちゃんが主人公の家にやってきて、主人公が甲斐甲斐しく相手をしていても、彼女は相手が小鳥だからか特に気にする様子は見せません。

それどころか小鳥ちゃんが欲しいと言ったものをプレゼントしたり、まるで主人公の妹のような存在として認識しているようでした。

しかし小鳥ちゃんはそうではありません。

主人公の彼女を、少しだけ意識していました。

ヤキモチを焼いているかのようにライバル視するような、そんなふうに彼女を見ているのです。

人間よりも人間らしいのではないか、私はそう感じました。

けれど面白い点があり、それは彼女と小鳥ちゃんの毎日はけっして交わらないところです。

前述したプレゼントの際もそうですが、主人公を介してやりとりが行われることはあります。

それだけで、基本的に彼女と小鳥ちゃんはお互いにまったく干渉しないのでした。

『ぼくの小鳥ちゃん』を読んだ感想

可愛らしくてあたたかいのに、ちょっぴり切ない……。

そんな表現がぴったりな物語です。

ページ数含め全体的に軽く、それでもぬくもりは忘れないような、寒い冬の日に読みたくなる本と言えるでしょう。

甘くて可愛い切なさ

この記事のタイトルにもあるように、この物語は甘いのです。

でもどこか寂しさを感じさせます。

それは小鳥ちゃんの境遇や、冬という季節の問題もあるでしょう。

けれどきっとそれだけではなく、江國香織の美しい文章がさらにそうさせているのだと私は感じます。

美しい文章で綴られる、寒い冬のあたたかい物語。

矛盾しているように見えますが、そう聞くだけで少し切ない気持ちになりませんか?

絵本みたいな小説

大人向け童話、とでも言うのでしょうか。

子どもが読むにはあまりに大人向けで、だからと言って難しい話でもないのです。

冷たい冬の情景や小鳥ちゃんのおてんばなところ、主人公と彼女のあいだに流れる柔らかい空気。

そんな物語の細かい雰囲気を読み取るために”大人”という条件が必要なのかもしれません。

難解なトリックがあったり生と死が関わっていたり、そんなことは一切ないのに圧倒的に大人向け……でも単純な物語。

読み終わったいまも、この物語に関しては不思議な感覚です。

だれに重ねる?

解説の角田光代は読者に、登場人物のだれと自分を重ねて読むか?と尋ねていました。

その登場人物のだれか、というのはけっきょくのところ、主人公と彼女と小鳥ちゃんの3択に絞られてしまうわけですが……。

ガールフレンドがいながら小鳥ちゃんというレディと暮らし世話を焼く主人公。

小鳥ちゃんの存在を意にも介さないマイペースなしっかり者の彼女。

そしてちょっと生意気で主人公の彼女に嫉妬してしまう小さな小鳥ちゃん。

読んでいるうちに自然とだれかに自分を重ねてしまっていることも少なくはないと思います。

そんなことを意識しながら読むのもまた楽しいのではないでしょうか。

『ぼくの小鳥ちゃん』はどんな人におすすめ?

寒い日が続く冬の日にはもってこいの一冊となっている本作です。

暖房の風にあたりながら、もしくは部屋のなかで陽ざしを浴びながら読むと、身も心もぽかぽかになることまちがいなしでしょう。

あたたかくなれる本が読みたい人にはもちろんおすすめできますが、ほかには、

  • “絵本みたいな小説”に興味を持った人
  • 冬の日に合う本と出会いたい人
  • 動物と人の物語を簡単に読みたい人

などなどにおすすめしたい作品となっております。

おわりに|寒い冬をぽかぽかに過ごすふたりと一羽に、あたためられて。

絵本のような小説がどのようなものなのか、少しだけでもわかってもらえたかと思います。

微かでも惹かれた人は一度読んでみることを強くおすすめします。

その文章のやわらかさと挿し絵のあたたかさのハーモニーに、きっと満足するでしょう。

一度読んだら生涯心に残り続ける、そんな印象を受けました。

そしてこうも思うはずです。

自分のところにも小鳥ちゃんのような存在が現れないかな。

こんな出来事が起こらないかな。

奇跡みたいなやさしさが、降りかかるといいな……。

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