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『ハーモニー』感想|”優しい世界”ハーモニーの正体とは?

”優しい世界”、まるでユートピアかのような世界を描いた『ハーモニー』。

著者、伊藤計劃さんの堂々たる2作目は、第30回日本SF大賞受賞、そしてベストSF2009の国内篇1位という、輝かしい実績を得ることとなりました。

構造的で作りこまれた舞台設定、世界観に最適な文章をもって表現を尽くす、伊藤計劃さん。

そんな彼が、2009年に34歳という若さで逝去してしまったことは、ファンには悲嘆を与え、新たな読者にも衝撃を与えたことでしょう。

今回は夭逝の作家、伊藤計劃さんが描いた『ハーモニー』をご紹介していきたいと思います。

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『ハーモニー』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルハーモニー
著者伊藤計劃
出版社早川書房
出版日2014年8月8日
ジャンル近未来SF小説

元々『ハーモニー』は、2010年12月8日にハヤカワ文庫JAから出版されたのが始まりでした。

いわゆる旧版といわれるこちらの書籍は、真っ白な表紙の左上に、黒文字でタイトルが書かれているだけというシンプルさでした。

本記事で紹介する『ハーモニー』は〔新版〕であり、旧版との違いは、巻末に伊藤計劃さんへのインタビューが掲載されたことです。

この追加要素は読者を、さらに『ハーモニー』の世界に引き込み、読者が『ハーモニー』の裏側を知ることのできる、”嬉しいおまけ”となりました。 

『ハーモニー』のあらすじ

では、精緻に作りこまれた”優しい世界”、『ハーモニー』のあらすじを見ていきましょう。

世界が一度”滅びかけたあと”の世界

『ハーモニー』の物語は、2019年に世界中で、同時多発的に戦争と疫病が発生したことが始まりです。

この出来事は、”大災禍(ザ・メイルストロム)”と呼ばれています。

これをきっかけとして、各国の政府は瓦解させられ、政府の代わりに”生府(ヴァイガメント)”が発足します。

そして”大災禍(ザ・メイルストロム)”以降の世界は、”生命主義”のもと統治されることとなります。

これこそが正に”優しい世界”の始まりであり、”生命主義”の理念のもと、各国民は健康、ひいては生命を最も尊ぶ生活を送ります。

この理念を色濃く映し出しているのが”Watch me”の存在です。

”Watch me”とは、各国民が体内に埋め込まれているナノマシンのことを指します。

つまり、極小サイズの機械装置が、各国民に埋め込まれているということです。

その役割は人々の健康状態を常に観察すること。

つまり、仮に、ある人の健康状態が危機に陥った場合、”Watch me”が反応し、アラートを鳴らします。

いかに”生府”の”生命主義”が本気か、お分かりかいただけるかと思います。

健康を最大限尊重する”生命主義”は、お酒やタバコの規制はもちろん、各家庭に”メディケア”という薬を配置しています。

”メディケア”は簡単に言うと、万能薬です。

身体に入ると、その人の症状に合わせた医療分子(メディモル)を精製。

そして、その人の症状を回復させてしまう、トップの医療技術品です。

また、生命を最も尊ぶ”生命主義”の影響は、各個人の思想にも深い根をおろしています。

人々は他人ー身内や友人以外の赤の他人、に対しても、死を目の当たりにした際、深い悲しみに暮れるのが常です。

そんな身体的・精神的にも”優しい世界”の一コマで生きるのは、3人の少女でした。

メインキャラクターは3人の少女

『ハーモニー』で焦点があてられるメインキャラクターは、3人の少女。

霧慧(きりえ)トァン、御冷(みひえ)ミァハ、零下堂(れいかどう)キアンです。

彼女たちは高校時代の友人です。

その中でも、『ハーモニー』はトァンの視点で物語が進みます。

特筆すべきは、トァンとキアンはミァハのカリスマ性に惹かれ、3人の友人関係が築かれたことです。

ミァハは成績優秀、しかしいつも一人で学校生活を送る不思議な少女でした。

そんな孤独に過ごすミァハに、当初、興味を持つ同級生は少なくありませんでした。

しかしあまりにもしつこく声をかけてくる同級生にミァハは、こう追い返します。

「ただの人間には興味がないの」

”優しい世界”の元、他人へ関心を持たないというのは、まさに変わり者でした。

そんな中、トァンは公園のベンチでミァハが本を読んでいる姿を目撃します。

紙媒体の書籍は、『ハーモニー』の世界では死んだメディアであり、過去の遺物扱いをされていました。

そんな変わり者のミァハがトァンの存在に気づき、会話を交わしたのがトァンとミァハの関係の始まりでした。

そこにトァンの友人だったキアンが加わり、不思議な3人の関係が始まりました。

ミァハはトァンやキアンに本で得た知識を語り、”生命主義”への反抗心を露わにします。

というのも、この世界では人々は成長期を終えると、”Watch me”を埋め込まれるのです。

ミァハはこう述べています。

「体を見張るメディモルの群れ。人間の体を言葉に還元してしまうちっぽけな分子。

そうやって、わたしたちはありとあらゆる身体的状態を医学の言葉にして、生府の慈愛に満ちた評議員に明け渡してしまうことになるのよ。」

「わたしは、まっぴらよ。」

時は過ぎ、いつものように3人で過ごしていたある日。

ミァハはカプセル薬を2人に渡します。

ミァハはこう言います。

「トァンはさ、わたしと一緒に死ぬ気ある……」

なんと、このカプセル薬は万能薬である”メディケア”を、食物の栄養を吸収させないように作り変えた、いわゆる死に至る薬です。

つまり、ミァハは、”生命主義”に対抗するため、自分の命をかけたストライキを行おうとします。

そして3人の少女は、不思議な友人関係の暗黙の了解のごとく、意思を一致させ、薬を飲みました。

結果的に、トァンとキアンは助かり、ミァハだけが亡くなったという知らせを受けます。

そしてこの出来事から13年後、物語は再び動き出します。

13年後ー再び混乱に陥る世界

13年後、トァンはWHO螺旋監察事務局の上級監察官となりました。

つまり、”生府”に仕える公務員のような仕事に就いたということです。

トァンは世界中、主に紛争地帯に赴き、監察官としての任務に追われていました。

そんな中トァンは紛争地帯にて、規制されている酒とタバコを入手し、嗜んでいました。

そして、”生府”にバレたことにより、トァンは故郷、日本への送還が決まりました。

紛争地帯から日本に帰ったトァンの感想は、故郷、日本への嫌悪でした。

「かくて、わたしは日常という砂漠に落ちた。」

「調和(ハーモニー)という名の蟻地獄に。」

そんなトァンを迎えたのは、自分と共に生き残った旧友、キアンでした。

トァンはキアンと食事に行き、日本での自殺未遂という過去、その忌むべき記憶に苛まれながらも、つかの間の休息を過ごします。

しかし、この休息は、日常が非日常へとたたき落とされる始まりでした。

それは、トァンとキアンが、ミァハを失った過去を中心に会話していた時でした。

出てきた食事をトァンがぼーっと眺めているとき、キアンはふと、

「うん、ごめんね、ミァハ」

と言い、食事用ナイフを握り、自分の首に突き刺したのです。

トァンは何が起こったか、まるで状況を理解できませんでした。

そして、トァンはのちにある事実を知ります。

キアンが自殺した瞬間とほぼ同じ時間、世界で6,582人もの人が自殺を行ったのです。

この事件を”生府”は”生命主義”に対するテロという見方を示しました。

”生府”に仕える上級監察官であるトァンは、事件解明のため送還措置が取り消され、調査に乗り出します。

そしてある事実に気づきます。

キアンが自殺した際、キアンの”Watch me”が通話モードになっていたのです。

トァンは嫌な予感に背筋が凍りつきます。

「キアンも、トァンも、こっちにはこなかったよね。」

「でもね、いまわたしにその勇気を見せてくれれば、それでいいような気がする。

世界に対して、永遠に続くものはないんだ、って、このカラダは自分ひとりのものなんだって、すぐに証明してくれたらまた一緒に、あの日に戻れる。」

そう、それはまぎれもなく死んだはずのミァハの声でした。

なぜ、キアンは自殺を遂げたのか?

なぜ、世界で同時多発的に自殺が行われたのか?

ミァハは一体生きているのか?

続きは、本屋でぜひ『ハーモニー』をお迎えください。

『ハーモニー』を読んだ感想

『ハーモニー』を読んだ感想を一言で表すのは非常に難しいです。

私は序盤から終盤までずっと物語に夢中で、ページをどんどんめくりました。

作りこまれた世界・設定の数々

『ハーモニー』の世界は、作りこまれた数々の設定が層を成して、重厚な世界観を実現していると感じました。

例えば、マクロな視点でいうと、『ハーモニー』は”生命主義”が世界を支配しています。

これは、”大災禍(ザ・メイルストロム)”の直後という点を考慮すると、反動的な思想として非常に発生し得るでしょう。

次に、ミクロな視点でいうと、”生命主義”は各国民の生活、思想、そして、身体まで支配しています。

その代表例が”Watch me”の存在です。

このマクロ、ミクロの設定が筋をもって、『ハーモニー』の世界を構成していることには、敬服としか言いようがありません。

私はこの”生命主義”に支配された、”優しい世界”は、物事の度が過ぎること、そして、

テクノロジーが人間を支配することへの警告のように感じました。

体内に埋め込まれる”Watch me”。

それは究極的な近距離での観察、そして監視です。

私は、トァンが”優しい世界”を蟻地獄のようだと表現したのと、同様の感想を持ちました。

表面上は美しいユートピア。

しかし、そこで生き続けるのはディストピアと同義なのではないか、と。

”優しい世界”における3人の少女の役回り

3人の少女の個性の描き方も非常に魅力的です。

明晰な頭脳を持ち、世界を真綿で首を絞めてくるものとして、抗ってきたミァハ。

ミァハに憧れ、共に自殺を図った過去を持ち、生府に仕えることとなったトァン。

ミァハとトァンに追従し、最終的にはミァハの声を聞き、謎の自殺に追いやられたキアン。

彼女たちの最初の出会いが、高校時代という点は興味深いです。

なぜなら、”Watch me”を埋め込まれる、まさに直前の時期だからです。

トァンとキアンはミァハに出会わなければ、恐らく、”生命主義”に抗うようなことはしなかったでしょう。

しかし、ミァハに出会ってしまったがゆえに、共に薬で自殺を図ります。

トァンは、あれだけミァハが反抗していた”生府”に仕えます。

まるでミァハから逃げ出すかのように。

キアンは、日本に残って”生命主義”を全うした生活を送ります。

やはりミァハから逃げ出すかのように。

トァンとキアンが弱いわけではないですが、ミァハの信念に対する強さとの対比が印象的に思えました。

再び滅びゆく世界で、もがく

”大災禍(ザ・メイルストロム)”以降は、平和を極めていた世界。

キアンを含む6,582人の同時多発的な自殺事件は、あまりにも唐突で、読者に衝撃を与えることでしょう。

キアンはトァンの目の前で自殺し、亡くなったはずのミァハの声が、キアンの”Watch me”の記録から検出。

世界をひっくり返す予兆のような、これらのシーンは、私のページをめくるスピードを速くさせました。

キアンもトァンも、過去から、ミァハからは逃げられなかった。

読者が自然と抱える謎の数々は、バラバラになったピースを埋めるように、回収されていきます。

その回収も見事で、痛快ともいえる程です。

そして、結末を見届ける頃には、『ハーモニー』のタイトルの意味を知るでしょう。

『ハーモニー』はどんな人におすすめ?

私はこのような方々に『ハーモニー』をおすすめしたいです。

  • 読みごたえのある本を読みたい方
  • SFに興味があるけど一歩踏み出せない方
  • 読者が考えさせられる本を読みたい方

『ハーモニー』は設定が作りこまれている分、用語などが比較的多いです。

しかし、漢字を元にルビがふられていることが多いので、漢字から意味を理解できます。

重厚な世界にどっぷりと漬かりたい方には、ぜひおすすめしたい1冊です。

おわりに|何かを得ることは何かを失うこと

”生命主義”は、人々を病気から遠ざけました。

他人と他人を結びました。

しかし、完璧に見える”優しい世界”にも、悪い点は当然あるのです。

人々の健康を保証する代わりに、人々の究極の個人情報である、生体情報がリアルタイムで監視されること。

いわゆる”監視社会”です。

”優しい世界”、つまりユートピアとは、人間の数だけある思想のために、実現しえないのかもしれません。

それでも、人間は過去の出来事を糧に、未来をより良くしようともがくものなのでしょう。

そして、それは人間であるがゆえに、常に何かを得ると何かを失う、そんな不完全な世界なのかもしれません。

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