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『春、戻る』感想|春とともに戻るのは記憶とそのなかに輝く大切なもの

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ある日、あなたの前にあなたの家族だと名乗る知らない人が現れたら、どうしますか?

当然おかしな人だと思い距離をとるでしょう。

警察を呼ぶ人もいるかもしれませんね。

もちろん警戒するにこしたことはありませんが、本当にその人は知らない人なのでしょうか。

なんの縁もない人なのでしょうか。

血の繋がりがなくて、見たこともないかもしれない人。

忘れたくて忘れた記憶のなかに、その人はいるかもしれません。

あたたかい思い出とともに……。

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『春、戻る』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル春、戻る
著者瀬尾まいこ
出版社集英社
出版日2017年2月17日
ジャンルあたたかい感動

なんとなくで物事を進めてきた主人公は、ある男の子と出会うことで過去と未来、人生を見つめ直すことになります。

不器用に、しかし懸命に生きる主人公もとに集まるのはあたたかい人たちでした。

閉じこめてきたつらい過去、そのなかに輝くもの、自分を救ってくれる存在……。

主人公はいろんなことに気づいていきます。

『春、戻る』のあらすじ

つらい過去を心に閉じ込めてなんとなく今を生きる主人公は、ある日兄だと名乗る年下の男の子と出会います。

結婚を控えた主人公の周りは、そんなおかしな男の子を受け入れる人ばかり。

だれも不審に思わないことに多少驚きながら、主人公もだんだんと心を許していきます。

その先に見えるもの、目を逸らし続けたものの先にあったものは、とても大切なものでした。

懸命にいまを生きる人たち

主人公の望月さくらは結婚を間近に控えた36歳の女性です。

彼女は大学卒業後、小学校の教員として働いていましたがいろんなことがあり一年でやめてしまいました。

その後は事務員をしていましたが、結婚も決まり仕事を辞め、結婚相手の実家である和菓子屋を手伝っています。

妹は結婚して幼い娘もおり、幸せな生活を送っているようでした。

さくらの結婚相手というのが和菓子屋の息子、山田哲生です。

体が大きくさくらは熊のようだと思っていたり、話し方は性格もおっとりしていて包容力がある男性のようです。

そんなふたりの前に突然現れた兄と名乗る24歳の男の子のことを、みんなは「お兄さん」と呼びました。

しかしさくらだけは頑なに「おにいさん」と呼びます。

家族のつながり

突然現れたお兄さんを受け入れられないさくらは、年下なのにとか血が繋がっていないのにとか、そういうふうに言い訳をしてお兄さんを遠ざけます。

けれどお兄さんは先に生まれたほうが兄とは限らない、兄妹だから似たところがたくさんあるなどと言って兄妹であることを強く主張するのでした。

妹は職場の年上の女性を姉さんと呼んでいたり山田さんも弟の彼女にお兄さんと呼ばれていたりしたことを告白し、さくらに血が繋がっていなくとも兄妹であることはおかしなことではないと訴えます。

家族とは血の繋がった人間が集まるコミュニティだ、と言うと味気なくどこか業務的で寂しい気もします。

実際はそうではなく、お互いが家族と認めた者同士ならば簡単に家族になれるのかもしれません。

たとえ血が繋がっていなくとも。

お兄さんや妹、山田さんの言い分は、めちゃくちゃに見えて案外その通りなのかもしれませんね。

閉じこめた過去と向き合うこと

さくらにはずっと見ないふりをしてきた過去がありました。

つらい思いをして挫折を味わった一年間、それはさくらにとって暗黒期のようなものでした。

たった一年、されど一年。

短い分そのつらさは凝縮されていたのかもしれません。

しかしその記憶は思い出は、本当につらいことだけだったのでしょうか。

振り返りたくない、見たくないと記憶に閉じこめた過去は、それほどまでに真っ黒なのでしょうか。

いざ自分の過去と向き合ったときさくらが見るものは、特別ななにかかもしれません。

『春、戻る』を読んだ感想

家族との繋がり、つらい過去、それらを題材にしたこの物語は読む人の心をあたためてくれます。

なにかを始めたくなるような気分になること間違いありません。

春が訪れるように心に吹くのは登場人物からのエールです。

それは今を懸命に生きる人たちに、きっと寄り添ってくれるでしょう。

救ってくれる存在

なにかでとてもつらい思いをしているとき、あなたはひとりぼっちだと嘆いてしまいませんか?

そんなとき自分を救ってくれる存在は案外近くにいるもので、ただそのときの自分は視野が狭くなってしまっているだけなのです。

自分のことを落ちこぼれた人間だと思い込んでいたところを、とある人に救われたお兄さん。

ひとりきりでつらい思いをしていたとき、ある男性に救われたさくら。

そんなふたりが教えてくれたのは、視野を広く持つことでした。

真っ暗闇のトンネルをあてもなく歩いているときこそ、周りを見ること。

味方はすぐ近くにいるのですから。

やさしさあふれる文章

本作のあたたかさの重要な要素のひとつである瀬尾まいこの書く文章です。

読みやすい文章で特にこれといった特徴はありませんが、ミステリーでもないのにぐいぐい引き込まれていく話の構成は目を見張るものがあります。

だからこそ全体のバランスがとれていて読みいやすいのでしょう。

タイトルの『春、戻る』。

シンプルで、なのに物語のすべてが詰まったこの短い文章は本を手に取ったものの興味を上手い具合にそそります。

瀬尾まいこという作家が書く文章のやさしさがよくわかる一冊となっています。

『春、戻る』はどんな人におすすめ?

文章のわかりやすさや難しすぎない展開は中高生にも楽しんでもらえるでしょう。

それでいて人生において大切なことを教えてくれる作品なので、思春期のあいだに読んでいて損はないと思います。

人を選ぶ展開ということもないので万人受けすると思います。

このご時世、大切なものをちゃんと見極めるために、たくさんの人に読んでもらいたい本でした。

  • 今をがんばる人
  • 読みやすいやさしい本を読みたい人
  • 新しいことを始めようと思っている人

特にそんな人たちに読んで欲しいです。

おわりに

物語のなかでとある男性がやさしく語ります。

「思い描いたとおりに生きなくたっていい。

つらいのなら他の道を選んだっていいんだ。

自分が幸せだと感じられることが一番なんだから。」

相手のことを思いやりながらも余計な気遣いを見せないこの言葉に救われたのはわたしもでした。

こんなふうに生きたいし、こんなふうに言えるようになりたい。

自分の幸せを第一に考えることの大変さは別にあります。

それでも、胸を張って生きたいと、読了後のわたしは思いました。

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