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『ひらいて』感想|女子高生の溢れる自意識を生々しく描いた青春小説

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“いつの間に私の「青春時代」は終わりを迎えていたのだろう。”

“鋭い感性で世界を見ていた危なっかしい私はどこに消えたのだろう。”

誰の心の中にもある、若さ故の痛々しい記憶とほろ苦くリンクする綿矢りささんの小説『ひらいて』をご紹介します。

著:綿矢 りさ
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『ひらいて』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトルひらいて
著者綿矢りさ
出版社新潮社
出版日2015年1月28日
ジャンル青春小説

本書は、綿矢りささんが、芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来久々に“高校生の青春”をテーマにして書いたものです。

綿矢さんの描く青春は、ただ輝かしいばかりの日々ではなく、10代ならではの悩みや葛藤にもがきながらも前に進もうとする若者の姿が特徴的です。

その不器用にも美しく力強い姿に、読者は胸を打たれるのです。

『ひらいて』のあらすじ

【クラスで人気の女子・愛が、同じクラスの地味な男子・たとえに片想いをする。】

設定だけを見れば単純に思えるかもしれませんが、女子高生ならではの過剰とも言える愛の自意識が物語を生々しく広げていきます。

クラスの地味目男子に惹かれる、愛

クラスの中でも目立つ方のグループに属し、自分が男子達の視線を集めるような女子であることも自覚している高校3年生の愛は、同じクラスの地味な男子・たとえに密かに想いを寄せていました。

他の女子たちのそれとは違って、顔がいいとか、運動ができるとか、話が面白いとかで説明できるような恋心ではなく、何かもっと高尚な想いでたとえを好きでいる愛。

常に落ち着いていてどこか影のあるたとえを好きになった愛ですが、自分がたとえを思って胸を焦がしているにも関わらず、当のたとえはいつもと変わらぬ様子であることに、徐々にイラつきを感じ始めます。

そして、「私にならできるはずだ」と思いたち、たとえを自分のモノにしようと意気込むのでした。

たとえに特別な存在がいると知り暴れ始める、愛

愛は、たとえが大事そうに自身の机に隠していた“手紙”をこっそりのぞき読みします。

それが、美雪と言う名の恋人らしき人から送られたものだと判明。

愛は、その美雪の正体が、一年生の頃に同じクラスだった糖尿病を患っているあの美雪だと推測し、近づいて親しくなります。

そして推測通り、たとえの恋人であった美雪への嫉妬心が膨らんだ愛は、ここから暴走を始めます。

たとえと5年ほど付き合っていながら、キスすらしたことがないと言う美雪。

愛はそれを、たとえが美雪を大切にしている証だと感じ、嫉妬のあまり美雪に強引にキスをします。

暴走し始めた愛は後日、たとえにいきなり告白するも「嘘をついている」と返され、腹いせにたとえを傷つける言葉を吐いてしまいます。

プライドが傷ついた愛は、嫌がりながらも美雪との関係をさらに深めていき、しまいには美雪を自分に惚れさせて、たとえと別れさせてやろうと考え始めるのです。

2人の絆を目の当たりにし、自らの愚かさを突きつけられる、愛

しかし卒業が近づいてもたとえとの距離は縮まらず、このまま会えなくなってしまうことに耐えかねた愛は、美雪を装いたとえを学校の教室まで呼び出します。

そこで全裸になり、たとえを待ち構え、面を食らうたとえに「美雪と寝た。」と告白して、2人の関係を潰そうとする愛。

そこまでしても取り合ってくれないたとえに抱きつき想いをぶつけますが、たとえは冷静に愛の愚かさを説くだけでした。

絶望に打ちひしがれる愛は、美雪にこれまでの経緯全てを話してしまい、美雪からも拒絶されます。

その後、学校生活に身が入らずにいた愛ですが、ある日家に美雪からの手紙が届いていることに気がつきます。

胸を打たれ美雪のもとに駆けつけると、そこには「たとえが大変だ」と言って慌てる美雪の姿が…。

実は、たとえは父親から、長年精神的にも肉体的にも傷つけられ続けていたのでした。

そこで愛は、たとえと美雪が“孤独”という共通点で強く結びついていたことを悟ります。

この2人の絆を引き裂くことができると思い込み、ただ気持ちのままに2人を傷付けた自分の愚かさを痛感する愛。

それでも、2人の絆の強さと自分の愚かさを知ったことで愛の心情にも変化が現れるのでした。

『ひらいて』を読んだ感想

この物語はかなり強烈ですが、共感できる部分も多分にありました。

自分自身に何らかの特別感を感じていたり、自らの不甲斐なさにがっかりしたり…。

私は本書を読んで、「高校生にもなってもう一人前だと思っていたのに、本当は1人では何もできないと思い知ったときの悔しさ」を思い出しました。

溢れる自意識こそ、欠点であり伸びしろ

正直、愛の自意識過剰ぶりには辟易してしまいました。

「顔がそこそこ可愛くてスタイルも良くて、クラスの人気者のグループにいる私だけど、実は他のみんなより落ち着いていて少し大人の世界にいる」と自己肯定感MAX。

愛のその自意識が、他者を傷つけることに繋がるのに…。

自分の存在を過信して、人の気持ちも考えずに暴れ回る愛の姿は、読者にとってはただただ醜く映ってしまいます。

けれど、その溢れんばかりの自意識がズタズタに崩壊されたときにこそ、人は何かを得ることができるのかもしれません。

自分の存在が揺らいだときにはじめて、本当に大切なことや自分らしさに気づける。

愛ほどじゃなくても、私たちもそうやって成長を繰り返し、気がついたときには既に大人になっているのかもしれませんね。

“叶わないはずがない”故の行動力

愛はなかなか強靭なメンタルの持ち主です。

一度振られた人にまたアタックできたり、女である美雪を自分に惚れさせることができると思っていたり。

普通の感覚なら沸き起こらないような行動力は、愛の魅力でもあると思います。

これもやはりずば抜けた自己肯定感の成せる技ということなのでしょうか。

いつもウジウジしてしまう私には、愛の姿は眩しすぎるものでした。

愛のゆく末は?

たとえと美雪の絆の強さを知り、もはや踏み込む余地はないと悟った愛。

最後のシーンでは、当てもなく電車に揺られながら、ポケットの中にあった折り鶴をほどきます。

私は、愛のこの折り鶴をほどく作業が、これまでの全てをリセットしてまた一から歩んでいこうという気持ちの表れなのではないかと解釈しました。

小説内で何か解答があるわけではないので、本当は全く違う愛のゆく道があるのかもしれませんが、愛にはたとえとも美雪とも違う世界でまた歩み出して欲しいなというのが私の感想です。

『ひらいて』はどんな人におすすめ?

私が『ひらいて』をおすすめしたいのは、以下のような人です。

  • 青春時代を思い出したい大人
  • 超酸っぱい恋愛小説を読みたい人

綺麗なだけじゃない、青臭い青春時代を振り返るには本書はいいきっかけになるはずです。

また、“恋愛は甘いもんなんかじゃない!”とお考えの方には共感できる場面が沢山あると思います。

おわりに

自分は周りのみんなより優れていると思っていたのに、まんまとそれを打ち砕かれる。

その痛みの中で初めて自分の本当の姿と大切なものの存在が浮き彫りになる。

女子高生の葛藤と戦いの日々が鮮やかに描かれた『ひらいて』が、痛々しくもギラギラと輝いていたあの頃のあなたをを思い出させてくれます。

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