「大切な人が殺されたとき、あなたは『復讐法』を選びますか?」
今回紹介する「ジャッジメント」では、合法的に人間が人間に復讐が可能になる「復讐法」が制定された世界で5つのエピソードからなるお話です。
そんなの現実的じゃないと思われるかもしれませんが、このお話では、「復讐法」を背景に児童虐待や、少年法などの現代問題が描かれているので、「復讐法」が存在する世界がイメージしやすくなっています。
お話の中に現実問題を絡めることで、現在の法律や決まりごとの有無についてとても考えさせられるでしょう。
さらにその中で描かれる人間の機微な心理にも感情移入できるような作品です。
著:小林由香
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『ジャッジメント』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | ジャッジメント |
著者 | 小林由香 |
出版社 | 双葉文庫 |
出版日 | 2016年6月21日 |
ジャンル | ミステリー小説 |
小林由香さんのデビュー作ともいわれているのがこの『ジャッジメント』。
デビュー作とは思えないような内容の濃さです。
2011年にはこの『ジャッジメント』で第33回小説推理新人賞を受賞しており、この本を機に数冊の小説を出版されています。
『ジャッジメント』のあらすじ
20xx年、主人公の鳥谷文乃(とりたにあやの)は、復讐法を執行する方の保護や、執行中の監査、記録などをする「応報監察官」として務めていました。
復讐法とは、判決で旧刑法もしくは復讐法と決まった場合、被害者遺族または親しい関係にいる方がどちらの法を執行するか選択できる法律です。
もし、復讐法を選択した場合は被害者が殺害された方法で、被告人に対して刑を執行することになります。
この復讐法では、少年法、精神疾患を患っている被告人に対して関係なく刑を執行することができます。
しかし、自らの手で命を奪うことから、執行する前に恐怖で自殺してしまう執行人や、執行後の精神がおかしくなってしまうこともありました。
集団リンチされた息子の父親
認識のない少年集団からリンチされ殺害された高校生の息子。
その殺害方法は鼻の骨を折られたり、バタフライナイフで刺されたりとそれを四日間かけて行い、とても残虐なものでした。
復讐法を選択した父親はとても後悔しています。
それは、いい父親になろうとしたがために息子に対し厳しい態度を取ってしまい、そのときのケンカで家を飛び出した息子が帰らぬ人となってしまったからです。
息子の死後、母親も自殺未遂をし、精神的にも追い込まれていた父親は刑の執行時、息子と同じように長い時間をかけて執行するつもりでした。
しかし、被告人は息子と近い年齢の少年であることから息子と同じように残虐な暴行は加えずに、バタフライナイフを心臓にひと突きし、執行を終えました。
その後外へ出た執行人である父親でしたが、そこに待ち構えていた被告人の母親によって刃物で刺されてしまい、このエピソードは終わります。
娘が祖母を殺害
「あの人を殺したら、楽しい未来が待っていると思うんです。」
と裁判で発言した娘。殺害したのは娘にとっての祖母。
娘の母親は復讐法を選択し、母親が娘に執行することを決意します。
母親は、昔から娘が友達の物を隠したり、周りに迷惑をかけていたことについて自分の教育がしっかりしていなかったために、祖母が殺害されたと考え、そのけじめとして娘に復讐法の執行を選択するのでした。
しかし、娘が今まで取っていた悪事と思われる行動は友達を思っての行動であり、娘なりの正義があっての行動であることが執行時に判明します。
祖母が殺害されたのも実は、祖母が宗教に入っていて、その影響により父親が家から追い出されたことや、母親が祖母の考え方になっていく様を間近で見てきた娘のなんとかしたいという気持ちからの行動だったのでした。
執行時にそのお話をされ、自分が今までしてきたことに気づいた母親は娘と再び新たな人生を歩むことを決意し、執行を中止します。
虐待により妹を殺された兄の復讐
両親による虐待、育児放棄によって5歳にして亡くなった妹。それに復讐法を選択した兄は執行時に自分たちがされたように、両親に対して食事を与えないようにします。
そうして食事を与えず何日かした頃、急に食事を与える許可を出します。
そして、兄自身は逆に食事を取らないようになりました。
それは、妹が虐待されていたときに、自分じゃなくて良かったと思ったことに対する罪悪感とこの執行を終えてからの人生、どうすることもできないという理由で自分が死のうとします。
食事を取らず、瀕死状態になっている兄を主人公の鳥谷文乃は応報監察官の規定を破ってまで助けようとしますが、後日兄は死亡しました。
『ジャッジメント』を読んだ感想
この本を読んでみて、正直後味がすっきりするような内容ではありません。
ただ、だからこそ本当に考えなければいけない問題があるということの認識をするべきと感じました。
このような重い内容ではありましたが、文の作りがはっきりしていたために、スラスラと読み進めることができました。
日常を大切に
一つ目のエピソードを読んだときに強く感じたのが「日常を大切に」することだと感じました。
いい父親だと思って行動していたことが裏目に出て、犯罪に巻き込まれるとはまさか思わなかったです。
そんな日常から一気に凶悪事件に発展する可能性もあるということ、日頃の行動は本当に他人にとって良いことなのか見直す必要があると思いました。
何か起こって後悔してからじゃ遅いということを常に意識しようと思います。
常識を疑う
二つ目のエピソードでは、祖母によって考え方も宗教的な考えになってしまった結果、それが定着してしまったこと。
その中で一番気をつけなければならないのはそれを常識だと思っていることだと思いました。
他人から見たら明らかにおかしなことをしているとしても、同じような考えを持った人間同士が集まってしまうと、明らかにおかしい少数意見も肯定し、常識として認めてしまうのです。
一度そうなってしまうと、抜け出させようとするには何かを失い、何かを傷つけることのように精神的にダメージがないと復帰することが難しくなるのです。
この宗教問題というのは、現実的にも深く考えるべき問題であるとこのお話で気づかせてくれました。
批評をするのではなく、それが本当に良い影響を与えているのかどうかしっかり判断することだ大事だと思いました。
実情は表に出ない
最後のお話ではネグレクト、児童虐待テーマに起こったお話でしたが、なぜこのような状況になってしまったのか考えさせる上、このような状況が表に出るのはほんのごく稀ではないのかと感じました。
児童虐待に関しては、傷を見えないようにしたり、形式上は幼稚園に行かせたりしていれば、疑いはないためこのお話と似たような実情が隠されているかもしれないと思ってしまいます。
最後に兄がとった行動にはとても感情移入しました。
妹を失い、両親を失った後兄に残るのは一体何なのかを考えると、あのような判断を取るのも複雑ですが共感してしまいます。
10歳とは思えないような行動に胸を打たれました。
『ジャッジメント』はどんな人におすすめ?
前述しましたとおり、決してすっきりするような内容の本ではありませんが、重大な事を考えさせてくれる本ではあります。
『ジャッジメント』にはこのような方におすすめです。
- 現代の社会問題に興味がある人
- ミステリー好きな人
- 法律が気になっている人
少しですがミステリーな要素も含まれているお話もあり、それは今回紹介していないお話なのでぜひ、ご覧になってみてください。
現代の社会のこと、法律について、考えさせてくれる本なので、元から興味のある方も、あまり知らない方でも読み終わった頃には、それに関連する考えが出てくると思います。
おわりに|『ジャッジメント』は法の意義について問いかけてくれる
この本の著者である小林由香さんのデビュー作と言えるのがこの「ジャッジメント」。
そんなデビュー作でこのような内容を作るところがとても魅力的な上で、その後出した本の構成もとても面白いです。
復讐法という法律がもしも存在していたらという本ですが、現代問題と関わり方にとても共感できるところがあり、かつて本当に存在していたのではないかと思うでしょう。
その中で表れる人間の心理がまた、現代の法律のことについて考えさせられます。
法律に従えばすべてが良い結果になるのか、定められてたルールを守ればそれで解決するのか、そのようなことをもう一度見つめ直すことが大事であると問いかけてくるこの本。
そんな「ジャッジメント」をぜひ手に取ってご覧になってください。
著:小林由香
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