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『強運の持ち主』感想|瀬尾まいこが書く占い師は一味違う

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「占い」という言葉に、どんな印象を受けますか?

最近ではメディアでも特集されることが多く、興味のある方が増えているのではないでしょうか。

当たる当たらないは別として、友人や家族ではなく、他人に話を聞いてほしいときが誰しもあるかと思います。

そんなとき『強運の持ち主』の主人公のような占い師に出会えたら、あなたの人生は大きく変わる、とは言い切れませんが、前を向かせてくれることは間違いないです。

不思議な力、魔法のような奇跡、そんなことは起こりません。

他とは一味違う、ちょっと変わった占い師に会いに行きませんか?

著:瀬尾 まいこ
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『強運の持ち主』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル強運の持ち主
著者瀬尾まいこ
出版社文藝春秋
出版日2006年5月12日
ジャンルエンタメ小説

著者の瀬尾まいこさんは、読むと気持ちが楽になるような温かい作品を数々出版されています。

瀬尾作品を語るうえで欠かせないのは「日常」の出来事。

ちょっとした、誰にでも起こりうるような日々が、著者の手にかかれば、それはとても愛おしいものへと変わります。

今作品『強運の持ち主』も、そんな「日常」にあふれている物語。

そして、4つの短編が収録されていて、とても読みやすいのです。

「占い」と「日常」対角線にあるようなその2つに注目して、いざ、物語の世界へ。

『強運の持ち主』のあらすじ

ルイーズ吉田、本名、吉田幸子。

飽き性な彼女が見つけた仕事は、占い師でした。

所長のジュリエ青柳は、不思議な雰囲気とはうらはらに、

「結局適当なことを言って、来た人の背中を押してあげるのが仕事なのよ」

と説明します。

初めのうちは真面目に占っていたルイーズでしたが、次第に直感で占うように。

小学生が3千円払って占いたいこと

ルイーズの占いにやってきたのは小学生の男の子。

お金を払ってくれるならと相談を受けることにしますが、その内容とはこんなものでした。

「今から、僕、買い物に行かなくちゃいけないんだけど、スーパー丸栄と、サトヤとどっちへ行けばいいかなって思って」

驚きつつも、人気のチョコが売っていたなという理由で、ルイーズは占うことなくサトヤを薦めました。

それからまた少年は現れ、

掲示係か、図書係どちらになった方がいいか、と占いとは関係がないことを相談しに来ます。

しかし、今度は何を迷っているのか聞くと、少年は、

「えっと、あのね、お父さんとお母さんどっちがいい?」

突然の重い相談

ルイーズは、両親の離婚の相談のことだと思います。

真剣に話を聞こうと、両親のことを尋ねますが、何故か少年は的を得ない話ばかり……。

どっちを選んでも同じ、両親の特徴を答えられません。

しかも、笑い話になる、とまで。

切なくて優しい真実

とりあえず、占いではどうにもならないので、調査をすることにしたルイーズ。

少年の家の様子をこっそり見に行くことに。

すると、家から出てきた父親の、とんでもない姿を目撃!

真実に気が付いたルイーズは、少年に占いの結果と称して、あるアドバイスをします。

その言葉に背を押された少年は、満足そうに帰っていきました。

女子高生のありがちな恋愛相談?

占いでよくある相談のひとつ、恋愛。

ルイーズのもとにやってきた女子高生は、こんな相談をしてきます。

「彼の気を引くためには、どうしたらいいですか?」

  • ラッキーカラーのピンクの物を使う
  • きちんと挨拶をしてみる
  • 髪型を変えてみる
  • 趣味の話をしてみる

ひとつアドバイスするたび、次は、と相談に来る女子高生。

ルイーズは、まるで友人のように提案します。

もちろん、占いと称して話していますが、ルイーズの占いはいつもこんな感じです。

気を引きたい人物とは

中々上手くいきませんが、諦めない女子高生にどうしたものかと頭を悩ませます。

ですが、偶然、付き合っているとしか思えない男の子と歩いている女子高生を発見。

彼氏がいるのに、何故気を引きたい異性がいるのでしょうか。

聞けば簡単な理由、ルイーズがしたアドバイスを聞いて、女子高生は、もう大丈夫だと帰っていきました。

おしまいが見える青年

やって来たのは、物事の結末が見えるという関西弁の青年。

お店が閉店する時期、カップルが何週間で別れるのか、それを感じることができるのだと言います。

青年は、図々しく、ルイーズのアシスタントをすることに。

しぶしぶ置いていたルイーズでしたが、どこか憎めない青年と接するうちに徐々に打ち解けていきます。

ルイーズ、何かが終わる

2人が仲良くなった頃、青年はルイーズに告げます。

「あのな、ルイーズさんに終わりが見えるねん」

青年の言うおしまいは、これまで外れたことがありません。

ルイーズは不安にかられます。何が終わるかは分からないのです。

恋人と別れることになるのかと考えますが、彼女は自分の中の終わるものを感じ取り……。

それは、他愛もないごくありふれたものでした。

ルイーズは小さな決断をすることに。

強運の恋人

ルイーズには同棲している恋人がいます。

占い師になったばかりの頃、かつてないほどの強運の持ち主であることがわかったルイーズが、あらゆる手を尽くして付き合った男性です。

その強運が発揮されたことはありませんでしたが、呑気で優しい彼と穏やかに暮らしていました。

ですが、再び占ってみると、強運がどんどん落ち込んでいる状態に。

他の占い師に言われるまで全く気が付かなかった自分にがっくり。

ルイーズ、本領発揮?

  • 仕事運アップ、金魚を飼う
  • ラッキーフード、甘いものを食べる
  • ラッキーアイテム、オレンジ色のシャツを着る

彼の運気を上げるために、占いに精を出すルイーズでしたが、ある相談をされます。

仕事を辞めて、IT企業の先輩と一緒に働こうかと考えているというのです。

「ルイーズはどうしたらいいって、思う?」

真面目に占うルイーズ。

占いは正しいような気がしますが、自分の直感との違和感を感じました。

これまで、誰かの背を押す占いをしてきたとき、ルイーズはほぼ、自分の直感で答えていたのです。

所長のジュリエ青柳からも、真面目に占いをしている姿を見られ、不思議がられる始末。

いつもどおりの直感の占いを信じてみたら、とそう言います。

私の運勢を動かすのは、今はまだ自分自身だ。

答えが出た彼女は、急いで恋人のもとへ帰るのでした。

『強運の持ち主』を読んだ感想

この物語に、大きな事件や感動は起こりません。

日常の些細な出来事を切り取った悩みや、優しいハプニングのような相談をルイーズは受けます。

誰かに聞いてほしい

物語に登場する少年、女子高生、青年、そしてルイーズの恋人。

占いという名目をつけて相談しますが、実際は誰かに、できれば他人に話を聞いてほしいだけ。

登場人物たちは、全員、本当はもう答えは決まっていたのです。

ただ、誰かにそれを肯定してほしい。そう願って、ルイーズのもとを訪れたのではないでしょうか。

彼女は、そんな彼らの願いを直感的に理解できたのだと思います。

誰かと食事をしたい

4つの短編で、何度も読み返してしまうのが、食事シーン。

  • ちくわとはんぺんが入ったクリームシチュー
  • 大きなカフェオレボールに注がれたココア
  • 車の中で食べる桜餅
  • 大型スーパーにある盛りだくさんのクレープ
  • 手作りのあげの入ったきつねうどん
  • 恐ろしく甘いフレンチトースト

どれもすぐに想像できて、一度は口にしたことがあるようなものばかり。

登場人物たちは、いつも誰かと食事をとります。

どこにでもある食べ物なのに、誰かと食べることで、心地良い時間になっているようでした。

あげは想像以上においしかった。嚙むとじんわりと甘い味が口の中いっぱいに広がる。うどんやだしもあげと一緒に食べると、まろやかになっておいしい。

読んでいて、思わずお腹が空いてしまいます。

読後は、きっと誰かを誘って食事に行きたくなるでしょうね。

誰かが傍にいるだけで

ルイーズの傍には、いつも誰かがついています。

所長のジュリエ青柳や恋人、そしてアシスタント。

ひとりでいることが気楽で好きなはずだったのに、気が付けば傍には誰かが。

食事をしたり、くだらないおしゃべりをしたり、悪態をついたりとルイーズの日常はもう、彼女ひとりだけでは回りません。

相談される立場でありながら、それを気負うことなくありのままでいられるからこそ、物語にあるような優しいアドバイスができたのだと思います。

『強運の持ち主』はどんな人におすすめ?

こんな気持ちを抱えている人は、ぜひ読んでみてください。

  • 日常を退屈に感じている
  • 他人に話したい悩みがある
  • あたたかい気持ちになりたい

頭を働かせることなく、穏やかな気持ちで読み進めることができる物語です。

きっと、退屈な日常の感じ方が変わると思います。

ルイーズが、優しく導いてくれること間違いなし。

こんな占い師になら、どんなことでも相談できそうだと思えます。

おわりに

主人公は、一般的にイメージするような占い師ではありません。

占いは奇跡や、魔法なんかじゃない。少しでも前を向いて生きられるように、背中を押してくれることです。

心に何か引っ掛かりがある人は、読後、気持ちが楽になっていることでしょう。

一味違った占い師は、登場人物たちの悩みにどう答えたのか、きっと「占い」の印象もがらりと変わると思います。

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