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『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』感想|自由のために懸命に戦った少女たちの1か月

桜庭一樹はしばしば体も心も発育途中の子どもたち、特に少女たちについての物語を書きます。

思春期の子どもたちが持つ素直な残酷さ、大人にはとうてい感じることの出来ない妙に惹かれる表現といったものをとてもリアルに物語に落とし込むのです。

ところでみなさんは中高生の頃に不思議な出会いや別れ、おかしな出来事に巻き込まれたことはありませんか?

そんな経験をしている人は稀でしょうが、桜庭一樹の物語はそういったことがよく起こります。

それは事件であったり事故であったり、けれどもどれもそのなかで少女たちは著しく成長していきます。

桜庭一樹の表現のリアルさゆえ、その物語たちはありえない展開であるほどわたしたちに身近さを与えるのでしょう。

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『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
著者桜庭一樹
出版社富士見書房
出版日2007年3月1日
ジャンルガールミーツガール・サスペンス

主人公の少女は転校生との出会いで、守ってきた環境や人間関係を壊し壊されてしまいます。

そしてその対価とでも言うように主人公が手にしたものは中学生にはあまりにも重たい経験でした。

少女たちは自由を手にするため厳しい現実という世界で生き残りをかけたサバイバルをせざるを得ません。

この世の中で通用する実弾と、すべてから目を背けるための砂糖菓子の弾丸を、撃ちながら……。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』のあらすじ

主人公の少女が通う中学校に都会から引っ越してきたというとある変わった少女が転校してきます。

自分を人魚だと言い張るその転校生はクラスのなかで唯一自分に興味を持たなかった主人公に目をつけました。

あらゆる手を使って主人公の気を引こうとする転校生に、主人公もだんだんと惹かれていきます。

まったく違う環境に生きると思われたふたりを待ちかまえていた結末は実に悲しいものでした。

ふたりはたったひとつの自由を求めて戦った子どもで、いわば戦友なのでした。

田舎町でサバイバルする少年少女たち

場所は鳥取県境港市、漁港がある小さな港町です。

語り手となるのは13歳で中学2年生の山田なぎさ(やまだ なぎさ)で、彼女は兄と母との3人家族でした。

早く自由を手にしたい彼女は毎日、そのために必要な世の中で生き抜くための実弾を求めていました。

そんな9月のある日、なぎさのクラスに転校してきた海野藻屑(うみのもくず)という少女が、自分は人魚なのだと自己紹介をします。

都会からやってきた青白い肌にきれいな顔をしている彼女は2リットルのペットボトルを持ち歩き、ことあるごとにごくごくとのどを鳴らして水分補給を行います。

クラスメイトが藻屑の父親が芸能人の海野雅愛(うみの まさちか)であるということに気づいたこともあり、しばしば教室内で注目を集めるのでした。

なぎさのクラスメイトというのは隣の席の野球部男子、花名島正太(かなじましょうた)や後ろの席のお調子者女子、映子(えいこ)などごく普通の中学生です。

そしてなぎさのたったひとりの兄妹である兄、山田友彦(やまだともひこ)はなぎさも認める美少年で、引きこもりでした。

砂糖菓子の弾丸と、実弾

なぎさは13歳にして世の中の厳しさを理解しています。

貧困層であり母子家庭であり頼みの綱の兄は引きこもり……母親はパートで働いているので夕飯作りなどの家事に友彦の世話はなぎさが行っています。

なぎさは中学を卒業すれば高校には行かず、自衛隊に入るつもりでいました。

中卒でも関係なく給料もすぐに貰えるから、そう語るなぎさの頭には実弾を撃つことしかありませんでした。

なぎさの言う実弾とは、世の中を生き抜くために必要不可欠な〈お金〉です。

それはなぎさが求める自由を手に入れるために必要なものでもあり、彼女はまるでリアリストとして生きているようでした。

対して藻屑が撃つのは甘い砂糖菓子の弾丸です。

愛する父親からの虐待から目を逸らし現実逃避をするように、嘘をついてまわります。

「こんな人生、ほんとじゃないんだ」

なぎさにはクラスメイトの誰よりもしつこく執拗に砂糖菓子の弾丸を撃ちこみ続けるのでした。

少女たちが懸命に生きた1か月

藻屑が転校してきたのが9月の初めごろ、そして物語が終わるのはちょうど1か月後です。

そのたった1か月のあいだに彼女たちはいろんなことを学びます。

子どもが無力であること、砂糖菓子の弾丸では戦えないこと、手を握ってくれる人がいればどこまでも行けること……。

自分の気を引こうと嘘ばかりついてくる藻屑に、なぎさもだんだんと惹かれていきます。

その性格ゆえクラスで浮いてしまう藻屑のためになぎさは自分も孤立する選択を選ぶことになります。

物語の序盤、なぎさは語っていました。

『生きることに関係なさそうな些末なことについては悩まない、関わらない』

藻屑はなぎさを、なぎさは藻屑を決定的に変えていくのでした。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』を読んだ感想

どんなにふたりの少女が足掻こうと、行きつく未来は残酷で悲しいものでした。

藻屑が転校してきてからちょうど1か月後、魚の生臭い匂いが充満する港町で起こったとある事件は、無力な少女たちを絶望のどん底に突き落とします。

そしてそれが生き残りをかけた子どもたちのサバイバルだと気づくのです。

失われたものたちの想いを胸に、なぎさは大人になっていくのでした。

約束された悲劇を楽しむ

さぁ物語を読もうとして物語が始まる前から、わたしたち海野藻屑が死ぬことを知ってしまいます。

そのことを踏まえたうえで藻屑が自身に与えられた運命を見ないで自分の人生は嘘だと言い張るところや、父親のことを好きだと言う姿を見なければなりません。

藻屑が死ぬことを知りながら物語を読み進めることは、読書中のわたしたちを幾度となく絶望させます。

藻屑はもしかすると死なないのでは、ふたりを待つのはハッピーエンドでは、そう思っても最初の1ページにある海野藻屑が死んだという新聞の切り抜き文章がわたしたちの思考を縛るのです。

藻屑がどうなるかを知っている読者は、それでも彼女が懸命に生きる姿を見なければなりません。

物語が始まる前からわかりきっている結末、しかしそれがあるからこそわたしたちはさらに本編を楽しむことができるのでしょう。

ふたりの主人公

語り手であるなぎさが主人公なのはもちろんですが、死ぬことが確実である藻屑もまた主人公です。

田舎町に住み中学2年生にして貧困を抱える山田なぎさと、有名な芸能人を両親に持ち都会からやってきた海野藻屑。

対照的かと思われるふたりの少女は出会った当初こそ噛み合いませんでしたが、次第に手を取り合い共に戦うようになります。

クラスメイトから冷めていると言われていたなぎさも、悪童のように生きていた藻屑も、お互いを信頼しお互いが生きるために必要な存在であると認識していくのでした。

桜庭一樹の物語をつくる能力

桜庭一樹は物語をつくる能力が凄まじいと、解説でも語られています。

わたしはこれまで彼女の作品をいくつか読んできました。

彼女の書く物語は、いつでも少女が”なにか”と戦っています。

子どもと呼ぶには大人で、大人と呼ぶには子どものような、そんな年齢の少女たちを主人公としているものが多く、彼女のなかのどこかにそんな少女たちが生きているように感じられます。

本作品について解説をする辻原登は、

「もし桜庭一樹が千年前に生まれていても、五百年前に生まれていても、傑出した物語作者になったに違いない。」

と語り解説を締めました。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』はどんな人におすすめ?

グロテスクなまでに健気な少女たちの物語、それは暗く鬱蒼とした森の中のようで読者の心にも小さな陰を作り上げます。

いったいなにが彼女たちをそうさせたのか、そして成長させていくのか。

万人受けはしないでしょうが読んだ者のなかに確実に傷をつけるでしょう。

  • 陰鬱な小説が好きな人
  • 桜庭一樹の世界を堪能したい人
  • 健気に生きる少女たちの友情物語が読みたい人

などにおすすめしたい作品となっています。

おわりに|少女たちが決意するまでを、その目で見届けてください。

子どもはみんな兵士で、その子どものうちに死んでしまった藻屑。

大人になるまで生き残れた者だけが自由を手にできるのだと、なぎさは自分のなかに藻屑を感じながら生きていきます。

そうして囚われることなく、住まわせるように……。

実際子どもというのは無力で実弾─お金─があっても子どもというだけで自由になれません。

それをわかってかどうかは定かではありませんが、藻屑は砂糖菓子の弾丸を撃ち続けていました。

まるで生きることを諦めていたかのようにぽこぽこと四方八方に撃つその姿は、しかし確かに兵士のそれだったのでしょう。

桜庭一樹の世界をぜひ感じてみてください。

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