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『白いしるし』感想|自らのすべてを懸けた全力の恋、そのすえに掴むものとは

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恋愛、というものに深く入り込める人はたくさん存在します。

私はそういったことにはとんと疎いのですが、この『白いしるし』は理解しようとじっくり読むほどつらくなっていきました。

恋愛を避けていた主人公が見つけた新しい想い人。

その人物に隠されたけっして手の届かない黒い背景。

西加奈子の世界観で綴られるそれらの物語は残酷でときに美しく、そして激しく発光していました。

金色でも銀色でもなく、ただただ白く、発光していたのです。

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『白いしるし』の概要

出典:Amazon公式サイト

タイトル白いしるし
著者西加奈子
出版社新潮社
出版日2013年6月26日
ジャンル恋愛小説

主人公の女は32歳、恋人はいなく、絵を描きながらアルバイトをして暮らしています。

幾度となく失恋をしてきた彼女でしたが、今となっては他人にのめり込み夢中になることを恐れていました。

そんな主人公が性懲りもなくまた恋に落ちます。

その相手は、まるで”絵画”のような男性でした。

『白いしるし』のあらすじ

主人公夏目は画家ですが、絵を描くだけで生きていけるレベルの画家ではありませんでした。

色彩豊かで個性的な絵を描く夏目はある日、友人の瀬田に紹介されてとあるギャラリーを訪れます。

そこで出会ったのは、白一色で描かれた山の絵でした。

すっかりその絵に引き込まれてしまった夏目は、作者である間島に恋をしてしまいます。

白い絵に続いて間島にも当然にように惹かれていった夏目は、気が付くと間島への恋で身動きがとれなくなっていました。

恋をするなかで混乱を極め、狂ったように間島を求める夏目。

果たして彼女にハッピーエンドは訪れるのでしょうか。

生命力を滾らせる女、夏目

大人しい生徒だった高校生の夏目はその当時の恋人の言うままに髪を青く染め登校し、みんなを驚かせました。

けっきょくその恋人とは別れることとなりますが、夏目は恋人を忘れるまでに2年という期間を要します。

体重が劇的に減ったり、そして元に戻ったり。

そういったことを繰り返してきた夏目はもう他人に恋をするのはこりごりだと思っていました。

間島という男に出会ったときも惹かれたときも、彼女は必死にその恋心に抵抗します。

解説の栗田有起はそんな彼女について、

もともとそなわっている生命力が豊かすぎた。

身の危険に敏感なのは、生きのころうとする本能が強いからなのだ。

と語ります。

いつでも夏目が欲していた「清潔な、生きたいという欲望」は、常に彼女のなかにあったのでしょう。

間島への恋に狂ったすえに死んだように生活していた彼女を救ったのは、「清潔な、生きたいという欲望」でした。

掴みどころのない男、瀬田

夏目の友人である瀬田は謎が多い男性です。

仲の良い友人として付き合いのある夏目や間島でさえ、瀬田のことをなにも知りません。

物語後半、誰にも興味を持たない瀬田がとある女性を殴ったことで、間島に揺られていた夏目の心情も凪ぎのように静まっていきます。

夏目にも読者にも徹底して自分自身を見せない瀬田は、なにをだれを想っているのか……。

目立った立ち位置ではないものの本作の絶対的なキーパーソンとなっている瀬田のたどり着くところをみたいものですね。

圧倒的に真っ白な男、間島

不遜な雰囲気を持つ間島は、夏目との出会いでなにかが確実に変わったわけではありません。

むしろ、間島は真っ白なのにきっとだれの色にも染まらないのでしょう。

間島を例える真っ白とは「だれかを受け入れる白」ではなく、「圧倒的な拒絶からくる白」なのです。

そして愛するたったひとりは常人には理解ができない相手……。

否定もしなければ肯定もしない間島はいつだって孤独で生を感じられなく、多くの失恋を繰り返し生命力にあふれる夏目とは正反対です。

そんな彼がどうして夏目を惹きつけたのか、どうして夏目の心をそこまで狂わせられたのか。

一読の価値は確実にあります。

『白いしるし』を読んだ感想

じっくり、じっくり時間をかけて読むことが大切な小説です。

二度三度と繰り返し読むのもいいでしょう。

全身全霊をかけて恋愛をする夏目は、確実に読む人を選びます。

しかし同時に、読者は恋をするでしょう。

自身のすべてを懸けて恋愛をする夏目に。

じっくり読むこと

何度も何度も繰り返し読みたくなる、それか一度読んだきり遠ざけてしまう、どちらかにわかれる小説でした。

私は前者です。

しかしどちらにせよその文章をその文字を、目で追い頭で反芻して、じっくりと読むことを求められる作品なことに違いはありません。

けっして難しい表現が並べられているわけではないのですが、夏目の心情や瀬田の謎、間島の背景をより一層深く理解するためには必要なことです。

本作を読む際にはぜひ余裕をもって読んでみてください。

独特な世界観

西加奈子は独特な世界観を持つ作家です。

『白いしるし』はそこまでその特徴が顕著に表れているわけではありません。

しかしその表現や登場人物の背景などは素晴らしく、変わらず読者の心を惹きつけるものがあります。

夏目の飾らない関西弁や瀬田が醸し出す不穏な空気、間島の常人離れした雰囲気。

こんな人たちは世の中にたくさんいるんだ、狂ったように恋をする夏目はどこにでもいる普通の女性なんだ。

西加奈子はただ個性的な文章や設定を書くだけの作家ではなく、読者にそうも思わせることができるのです。

読者に伝えたいこと

全力で恋愛をする夏目という女性を通して、西加奈子は伝えたいことがたくさんあったのではないかと思います。

恋愛と失恋を繰り返すことの大切さや、その意義。

創作をすることに対する心の持ちよう。

だれかを想うことで成長できること。

いつの間にか夏目に惹かれる私たちはきっと彼女たちと同じ、寂しく孤独な人間なのでしょう。

『白いしるし』はどんな人におすすめ?

つらい恋愛の渦中にいる人には少し残酷は物語かもしれません。

心を強く抉られることもあることでしょう。

ですから色んな意味で余裕のあるときに読むことをおすすめします。

そしてその他にも、

  • “全身全霊の”恋愛小説が読みたい人
  • 西加奈子の世界観に浸りたい人
  • 創作活動をしている人

などにもおすすめできます。

あえて、つらい恋愛を経験した人にも……。

おわりに|狂おしいほどの恋のすえ、彼女が見出したものは……。

ありあまる夏目の生命力に圧倒されて、読了後にはこちらの気力は皆無になることでしょう。

間島に恋をした夏目に恋をする私たちは、いったい夏目のなにに惹かれたのか……。

それを確かめるためにもう一度読むことを強いられることもあるはずです。

実際、私がそうでした。

もう一度じっくり読んで、夏目の、瀬田の、間島の、一度目ではわからなかったそれぞれの心情や背景を少しでも理解できたのなら、作品をもっと楽しめるのにと思います。

それから、私が夏目に恋をした理由も……。

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