「夢」を持つ、というのは素晴らしいことです。
ですが、それを言い訳にして人生を止まったままにするのは、あまりにももったいない。
『その扉をたたく音』は、夢を捨てきれないまま、なんとなくな日々を送っている青年と人生の先輩たちの物語。
人生というものはとてもやっかいで、どうにもならないことばかりです。
いつか終わってしまうことが決まっている命、それがわかっているのだからもっと有意義に使うべき。
そう思っていても、簡単にはいきません。
先へ進めないでいる悩める大人のみなさんへ、物語への扉を、たたいてみてください。
著:瀬尾まいこ
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『その扉をたたく音』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | その扉をたたく音 |
著者 | 瀬尾まいこ |
出版社 | 集英社 |
出版日 | 2021年2月26日 |
ジャンル | 青春小説 |
著者は、本屋大賞を2019年『そして、バトンは渡された』で受賞した瀬尾まいこさんです。
心温まる物語が多く、一度読むと必ずファンになってしまうくらい読者に愛されている作家さんだと思います。
『その扉をたたく音』は、夢を諦められない青年が、音楽の天才に出会うことで始まった青春小説。
中々かみ合わないふたりと、人生の先輩たちの優しくて、明日を生きる力になる物語です。
『その扉をたたく音』のあらすじ
ミュージシャンへの夢を諦めきれない青年、宮路は「そよかぜ荘」と呼ばれる老人ホームでギターの弾き語りをやっています。
偶然、そこの介護士である渡部のサックスを聴くことに。
最初の音を聴いただけで宮路は、彼を天才だと感じます。
どうしても、もう一度その音を聴きたい彼は、またホームへ出かけ……。
音楽に興味がない音楽の神様
宮路は何とか渡部と接触。
どうしてそんなに上手いのか、自分の演奏はどうだったか尋ねます。
「その、きっと素敵な演奏だったんでしょうけど、すみません。ぼく、音楽に疎いというか、興味がなくて……。そのせいで、覚えてないんですね」
天才的に上手いのに、と宮路は驚きます。
それから口実をつけて会い、彼をバンドに誘いますが、渡部の反応は薄いものでした。
入居者たちのおつかい
ホームへ通う宮路は、水木という口の悪いおばあさんと知り合いに。
水木は、彼のことを「ぼんくら」と呼び、買い物を頼みます。
息子ということで、ホームに入りやすくなりますが、次第に他の入居者の買い物もするようになり……。
馴染み始めた頃、本庄というおじいさんから引き受けたのは、ウクレレの先生。
ふたりのセッション
どうしてもと頼み込んで、宮路と渡部はセッションをする約束をしました。
ホームで披露するだけなのですが、久しぶりの誰かとの練習に宮路の心は踊ります。
ふたりは、だんだん普通の友だちのように仲を深め、音楽の楽しさを共有するのです。
ホームの人たちとのあたたかな関わり、そして渡部とのセッション、宮路の中である変化が生まれ……。
『その扉をたたく音』を読んだ感想
宮路の家は裕福で、働かなくても毎月、お金は振り込まれます。
ミュージシャンになりたいと願う彼は、怠惰な毎日を送る、はたから見たらとてもダメな人間です。
ですが、物語が進んでいくにつれ、宮路の素直な内面を知ることに。
人生の先輩との関わり
宮路はホームへ通うようになり、水木のおつかいや本庄ののウクレレの先生をやることも。
「ぼんくら、読んだのかい? これ、中古本じゃないか」
「考えたらそうだな。でも内容知らない本を渡すのもどうかと思って」
嫌々頼まれていたのにも関わらず、宮路は水木たちのおつかいに、いつも頭を悩ませ、喜んでもらえるように気を配ります。
他人の買い物なのに、本を買ってくるよう頼まれたときも、何冊か買って実際に読み、面白かったものを選んで持っていくのです。
ウクレレを頼まれたときも、やったことがないのに教えるために練習して、根気強く付き合う。
そんな宮路の姿を見て、水木は手紙を渡します。
年寄りと根気強く話せたり、人のために行動できる宮路が、バカな人間のはずがない、そんな風なことが書かれていました。
人と真摯に向き合うことのできる宮路。
彼の印象が、大きく変わっていった瞬間です。
一緒に何かをすることは楽しい
宮路は渡部を誘い、サックスとギターのセッションを開始します。
学生のときぶりの爽快感や達成感を味わった宮路は、音楽の素晴らしさを感じ……。
この混じりけのない音は、一人でいては、音楽の中だけにいては、決して出せない。たくさんの人と交わって、自分の内面にある濁りや汚れが削られてきたからこそ、彼の出す音は澄んでいるのだ。
渡部のサックスの音に感動した理由がわかった宮路は、自分が開かなくてはいけない扉を見つけます。
誰かと一緒に行動することで、知らなかった価値観に出会うことがあります。
豊かに世界を見るために、そうして決断した宮路をとても応援したくなりました。
人生の終わりに
老人ホームの入居者たちは、あたたかくユニークな人物ばかり。
ですが、人生の終わりに差し掛かった人たちです。
認知症になったり、体が動かなくなったり、宮路はその光景を目の当たりにします。
落ち込む彼に、渡部は、
「宮路さん、多くの人はぼけるし、人は必ず死にます。それは宮路さんの周りの人も例外じゃないです。いちいち立ち止まってては何もできませんよ」
介護士として働く渡部にとっては日常のこと。
それでも、人の死に完全に慣れることなんてありません。
ホームの人たちを見ていると、日常がいかに大切なものか、そして、生きていることの素晴らしさを感じることができました。
『その扉をたたく音』はどんな人におすすめ?
神様みたいな音楽と出会った青年の物語、『その扉をたたく音』を読むなら、
- 夢を諦めきれない
- 人生に行き詰っていると感じる
- 毎日を生き抜く活力がほしい
こんな方におすすめします。
このままの人生で本当にいいのだろうか、と思うことは人間誰しも通る道です。
そのときに出会った人たちが、この物語の人のようだったら、きっと宮路のように変わることができる。
毎日をただ過ごすのではなく、悔いのないように生きたい、と思える物語です。
おわりに
ただ音楽が好きで、ミュージシャンを目指していた宮路は、ようやく自分が今やらなければならないことに気がつきます。
自分に言い訳ばかりしていた宮路は、肩書も無職で、親の脛をかじっていることからダメな人間だと思われがちです。
確かに、社会的にはそう見えるかもしれません。
ですが、真心込めて人と接する彼は、きちんと自分で歩みを進めることができました。
それは、ホームの入居者や渡部のおかげであるのですが、決められたのは彼が彼であったから。
自分のことを卑屈に思っている人や、人生に行き詰まりを感じている人に、宮路の下手くそだけれど、人一倍楽しそうにギターを弾いている姿を見てほしいなと思います。
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