「だってあなたは私ですから。見放したくても見放せません。いつでも一心同体です」
悩んだとき、困ったとき、アドバイスがほしいときは頭の中のもう一人の私「A」に相談できるから、なんの問題もなく「おひとりさま」を満喫する主人公・みつ子。
根本的に他人を必要とする感情が薄く、ひとりでいることが自然体だという彼女。
しかし、人はその程度は様々であっても、無意識の内に誰かを必要として生きていて孤独を感じることはあります。
他人に対する特別な感情に、不安と希望の中で葛藤しながら、一歩ずつ踏み出していくみつ子の繊細な気持ちの変化を描いた物語です。
著:綿矢 りさ
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『私をくいとめて』の概要
出典:Amazon公式サイト
タイトル | 私をくいとめて |
著者 | 綿矢りさ |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版日 | 2017年1月6日 |
ジャンル | 恋愛小説 |
33歳独身女性の主人公・みつ子の繊細な気持ちの変化を描いた恋愛小説です。
2020年には『勝手にふるえてろ』でもタッグを組んだ大九明子が監督・脚本を手掛け、実写映画化。
のんと林遣都が初共演し、話題となった映画の原作です。
映画と原作で展開が少し異なるので、映画を見た人も見ていない人も楽しめる1冊です。
『私をくいとめて』のあらすじ
この物語の主人公となるのは、ひとりで生きていくことになんの抵抗もない33歳女性・みつ子。
休みの日は、ひとりで食品サンプルの製作体験講座に行ったり、ひとり焼肉のランチをしたり、おひとりさまライフを満喫中。
そんな彼女は、ある時を境に脳内のもうひとりの自分「A」と会話ができるようになりました。
もうひとりの自分「A」と会話しながら、おひとりさまの日常を過ごすみつ子
もうひとりの自分「A」はいつも彼女がひとりの時に現れます。
話し相手になったり的確なアドバイスをくれるみつ子の一番の味方でした。
時に「A」の意見や主張で突き進んで、恋愛面で傷つくこともありましたが、みつ子は「A」との会話を楽しみながらひとりで生きていくことに慣れていました。
多田くんとの出会い、イタリア旅行によって変化する感情
おひとりさまライフを謳歌する中、ひょんなことから会社の取引先の営業マン・多田くんにごはんを作ってあげる関係に。
みつ子が作ったごはんを、容器に入れて持って帰るだけの関係に、次第にやきもきし始めるみつ子。
彼のことを好きだと自覚し、ついに家に招き入れ、穏やかで楽しい時間を過ごしました。
しかし、そこから関係を進めることに臆病になるみつ子。
そんな中、結婚を機にイタリアへ移住した大学時代の友人・皐月から、冬休みをイタリアで一緒に過ごそうというエアメールが届きました。
長らく会っていない友人に会えることや、イタリアの家庭でニューイヤーを体験できることへのワクワクした気持ちがみつ子を動かし、八泊十日の長旅へ。
苦手な飛行機では、揺れや墜落への恐怖に怯えながらも「A」に勇気付けられ、なんとかイタリアへ到着。
皐月や皐月の夫・マルコ、家族に迎え入れられ、非日常で初めての経験をする日々を過ごします。
多田くんとの関係の進展への不安と葛藤、踏み出す先には
帰国したみつ子は、会社の同僚・ノゾミさんやカーターとのダブルデートを経て、多田くんと付き合うことを決意。
しかし、自分の他人に対する感情の薄さや、傷つき傷つけることを恐れて葛藤するみつ子。
その葛藤の中で、他人と自分を分け合うことへ一歩踏み出していくのです。
『私をくいとめて』を読んだ感想
この小説を読んで私が一番最初に抱いた感情は、「他人に対する感情が薄いみつ子と、私はどこか似ている」という共感でした。
そして同時に、そのような自分でいていいのだという救いにもなりました。
みつ子と「A」の会話が軽やかに描かれていることも、私を救ってくれる要因の一つです。
「他人を必要するバローメーターは、人によって違う、違っていいんだ」
そう思わせてくれる力がこの小説にはあります。
他人を必要とするバロメーター
他人とどうして分け合わないといけないのか。
ひとりで生きるという選択肢は生きづらいのか。
そう言う風に感じて過ごしている人も多いのではないでしょうか。
かく言う私も、ひとりで過ごす時が一番自然体でいられると感じています。
どれだけ仲が良くても誰かといる自分は、無意識の内にその人にとっての「私」を演じてしまいます。
ただ、それは噓偽りの自分ではなく、私にとってその人といる時のベストな自分であり、全て自分であるのです。
けれど、やはりずっと誰かのための私でいるのは疲れてしまいます。
だから、誰のためでもない自分であること=ひとりで過ごすことも、必要なことです。
それは、つまりひとりで過ごすことも好きであるからといって、人を全く必要としていない訳ではないということ。
私は、他人を必要とするバロメーターは人によって全く違うものであると考えています。
私が他人を必要とするバロメーターの10が、相手にとっての5であった場合、相手にとっては全然必要とされていないと感じてしまい、すれ違ってしまうこともあるのではないでしょうか。
みつ子は、最後の「A」との別れの時に、こう訴えています。
自分が根本的に人を必要としていないことがショックだったの。人と一緒にいるのは楽しい。気の合う人だったり、好きな人ならなおさら。でも私にとっての自然体は、あくまで独りで行動しているときで、なのに孤独に心はゆっくり蝕まれていって。その矛盾が情けなくて。
この葛藤、自分の生きづらさを自覚するみつ子の感情に痛いほど共感しました。
他人に自分のバロメーターを理解してもらうのは、とても不安で勇気のいることです。
しかし、その不安を乗り越えて他人と自分を分け合う一歩を踏み出していくみつ子の姿に私自身、自分を受け入れ、他人と分け合うことへの勇気をもらいました。
自分らしく生きる登場人物たちの描かれ方
この小説には、主人公のみつ子以外も、個性的で自分らしく生きる人物が登場します。
みつ子の会社の同僚兼友人であるノゾミさん。
彼女は社内の変わり者・カーターが大好きで、彼の為なら何でもできちゃう女性です。
しかし、一歩引いた目線で自分と彼との関係を語るシーンもあります。
そのノゾミさんが大好きなカーターは、誰もが羨む整ったルックス&スタイルでありながら、独特のファッションセンスを持ち、思ったことは何でもいってしまう男性。
常に自分に自信を持ち、自己肯定感の高さを隠そうとしません。
この小説ではこのように現実にいなさそうなキャラクターでありながら、一部を切り取って見ると意外と身近な人に当てはまるような人物が登場します。
私は、このキャラクターの登場に、自分の個性や価値観に生きづらさや劣等感を持って欲しくない、持つ必要がないというメッセージが込められているように感じます。
この二人の個性が明るく描かれていることで、人にどう見られるかを気にして、自分の個性を消したり、他人の価値観を穿った目線で見ないよう生きていきたいと思いました。
『私をくいとめて』はどんな人におすすめ?
33歳独身女性・みつ子の日常と気持ちの変化を読むなら、
- ひとりで過ごすことが好きな人
- 恋愛に不器用で臆病な人
- 20代後半〜30代前半の女性
以上の方に、特におすすめします。
みつ子の揺れる感情や、変化する行動に共感したり、自分と重ね合わせて読むことができると思います。
おわりに
他人の感情に触れることに対して繊細なみつ子。
もうひとりの自分「A」や周りの人たちと関わり合う中での、様々な心情の変化がテンポよく描かれています。
同じような経験や思いをしたことがある人は多いのではないでしょうか。
作品中、「そうそう、そうなんだよね」と共感してしまうところがいたるところにあふれています。
読み終わった後、みつ子のように何か一歩踏み出したくなるような、そんな気持ちになると思います。
ぜひ一度お手にとってみてください。
著:綿矢 りさ
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